GO解析(2)

GO解析の考え方

発現が増加または、減少した遺伝子の一群(発現変動遺伝子群)の中に、「特定の用語(機能、キーワード)をアノテーションに持つ遺伝子が多い」ことを述べるには、下記の2つの点を考慮する必要があります。

  1. その用語をアノテーションに持つ遺伝子が、ゲノム中にもともと多いのかどうか。
  2. 発現が増加または、減少した遺伝子の数が多いかのどうか。

1. について

もともとゲノム中に多く含まれる機能は、当然、発現変動遺伝子群においても見つかりやすいです。たとえば、 GO:0005488 : binding は、ほとんどの遺伝子がこの機能をアノテーションされています。(何らかのタンパクと結合することが考えられますので、当然といえます。)GO:0016020 : membrane などもそうです。ほとんどの遺伝子は、膜系か、それ以外に分類されるためです。

「当たり」が多く含まれている宝くじを引いていることをイメージするとよいでしょう。それでは当たったことが重要にはなりません。

2. について

発現が増加または、減少した遺伝子の数が多い場合、あらゆる機能の遺伝子が見つかりやすくなります。マイクロアレイデータによっては、3000個以上の遺伝子が増加、減少していることもあります。この状態では、ほぼすべての機能の遺伝子が含まれていて当然と考えられます。

宝くじをたくさん引いていることをイメージするとよいでしょう。何度も挑戦することで、当然、当たりやすくなるため、当たったことの重要性は薄れます。

好ましい状態

上記を考慮すると、最も重要性が高くなるのは、次の条件です。

「もともとゲノム中に数少なく見られる機能を持つ遺伝子が、少ない発現変動遺伝子群に数多く含まれている。」

言い換えると、「ゲノム中(4万個)に10個程度しか含まれない遺伝子が、マイクロアレイ解析の結果、変動していた100個の遺伝子群の中に、8個も見つかった」というような状況です。(数字は適当です。)

DAVID の解析結果などに表示されている GO についた p-valueEnrichment Score は、上記の点を考慮して算出されたものです。 p-value < 0.05 であれば、偶然ではないことが主張できます。

 

GO解析 (1)

GO解析とは

マイクロアレイ解析の結果、まず得られるのは、発現が増加または減少した遺伝子(発現変動遺伝子)のリストです。一般的には、エクセルの表の形で扱われることが多いと思います。

そのリストを眺めて(または検索して)いると、「特定のGO用語(機能、キーワード)が多く含まれているようだ」ということが直感的に分かると思います。

例えば、GOの列に GO:0006954 : inflammatory response が多いなぁ、というように。

では、どれくらいの頻度で見つかれば、特定の用語が見つかる頻度が高い(エンリッチされている)と言えるのでしょうか?発現変動遺伝子が100個あったとして、10個見つかれば、いいほうなのでしょうか?何個 “inflammatory response” が見つかれば、「マイクロアレイ解析の結果、炎症系の遺伝子に影響があった」と言えるのでしょうか?

これに答えるのが、「GO解析」です。GO解析(2) へ。

 

SQL言語 (MySQL)

SQL言語を使った遺伝子の選択

マイクロアレイのデータを処理するときに知っておくと便利なツールとして、SQL言語があります。コンピューターにいろいろな命令を出すのが、プログラミング言語と呼ばれるものです。その中でもデータベースの処理に特化した言語が、SQL言語です。(SQL言語にはいくつかの種類があり、ここでは MySQL という種類を用います。)

プログラミング言語の中でも、SQL言語は、人間にも比較的読みやすい言語です。例えば、次のようなものです。

SELECT ProbeID, GeneSymbol
FROM 'アノテーションのテーブル名';

アノテーションのデータが、データベースのテーブルに格納されていれば、このような表現で、ProbeID と GeneSymbol の一覧を取得できます。

アノテーションの GO に “tumor” を含む遺伝子すべてを取得するには、次のようなSQL(クエリー)を用います。

SELECT a.ProbeID, a.GeneSymbol, a.GO, d.Sample1, d.Sample2
FROM annotation a
INNER JOIN data d
ON a.ProbeID = d.ProbeID
WHERE a.GO LIKE '%tumor%';

 

 

Gene Ontology (GO) の得意、不得意

GOを使うと何でも解析できるというわけではありません。GOには、その構造上、得意な点と不得意な点があります。

GOの得意な点

マイクロアレイ解析の結果から、特定の用語(機能、キーワード)を持つ遺伝子だけを取り出せます。マイクロアレイ解析の結果を表示したエクセルのGOの列を検索すればよいです。または、AmiGO で、GOの特定の用語を持つ遺伝子のリストをあらかじめ取得しておき、遺伝子名を検索する方法もあります。(探したい遺伝子が1個か2個なら、よいのですが、大量に検索するときは、データを一度データベースに登録して、SQL言語を利用するなど、情報処理の技術を使うことをお勧めします。人的ミスを防げますし、時間がかかりません。ご相談ください。

GOの不得意な点

当然ながら、GOに登録されていない用語(機能、キーワード)を扱うことができません。例えば、 “apoptosis” ではなく、 “apoptotic process” でなければなりません。”response to tumor necrosis factor” (GO:0034612) はありますが、 “tumorigenesis” はありません。”oncogenesis” という用語も現在は使われていません。流行の stemness genes はありませんが、 “stem cell differentiation” (GO:0048863) はあります。

よく使われる用語であっても、意外と登録されていなかったりします。(登録されていない原因はいろいろです。言い換えができたり、GOの思想と合わないなど。)この場合は、単語を区切るなり、別のいい方を考えたり、もっと細かいプロセスに分解して考える必要があります。

“tumorigenesis” の例でいえば、GOの用語中に “tumor” を含むものすべてという選び方をする必要があります。また、転移 (metastasis) に関連する遺伝子を選びたいとしても、 GO に “metastasis” はありませんので、GO:0051726 : regulation of cell cycle と GO:0007155 : cell adhesion と GO:0042379 : chemokine receptor binding というように複数のプロセスに分けて考え、それらをGOに持つものすべてを対象として選択することになります。

 

AmiGO を使った Gene Ontology (GO) の検索(結果の表示と取得)

検索結果の表示と取得

用語の検索結果の画面において、用語の右側に表示された遺伝子数をクリックすることで、その用語をアノテーションに持つ遺伝子の一覧を表示できます。このとき、遺伝子数が多い場合は一覧が表示されません。生物種を選択して、フィルターをかける必要があります。

検索結果とフィルター

一覧が表示されます。この結果をファイルとして保存するには、 “gene association format” をクリックします。こうして取得されたリストは、マイクロアレイデータを解析する際に役立ちます。

検索結果の取得。

検索結果には、選択した用語(例の場合は、GO:0043066 negative regulation of apoptotic process)と、その子供の用語をアノテーションに持つ遺伝子も含まれています。例の場合、GO:0071866 negative regulation of apoptotic process in bone marrow をアノテーションに持つ2個の遺伝子が含まれています。

子供の用語を含む結果。