Gene Ontology (GO) の得意、不得意

GOを使うと何でも解析できるというわけではありません。GOには、その構造上、得意な点と不得意な点があります。

GOの得意な点

マイクロアレイ解析の結果から、特定の用語(機能、キーワード)を持つ遺伝子だけを取り出せます。マイクロアレイ解析の結果を表示したエクセルのGOの列を検索すればよいです。または、AmiGO で、GOの特定の用語を持つ遺伝子のリストをあらかじめ取得しておき、遺伝子名を検索する方法もあります。(探したい遺伝子が1個か2個なら、よいのですが、大量に検索するときは、データを一度データベースに登録して、SQL言語を利用するなど、情報処理の技術を使うことをお勧めします。人的ミスを防げますし、時間がかかりません。ご相談ください。

GOの不得意な点

当然ながら、GOに登録されていない用語(機能、キーワード)を扱うことができません。例えば、 “apoptosis” ではなく、 “apoptotic process” でなければなりません。”response to tumor necrosis factor” (GO:0034612) はありますが、 “tumorigenesis” はありません。”oncogenesis” という用語も現在は使われていません。流行の stemness genes はありませんが、 “stem cell differentiation” (GO:0048863) はあります。

よく使われる用語であっても、意外と登録されていなかったりします。(登録されていない原因はいろいろです。言い換えができたり、GOの思想と合わないなど。)この場合は、単語を区切るなり、別のいい方を考えたり、もっと細かいプロセスに分解して考える必要があります。

“tumorigenesis” の例でいえば、GOの用語中に “tumor” を含むものすべてという選び方をする必要があります。また、転移 (metastasis) に関連する遺伝子を選びたいとしても、 GO に “metastasis” はありませんので、GO:0051726 : regulation of cell cycle と GO:0007155 : cell adhesion と GO:0042379 : chemokine receptor binding というように複数のプロセスに分けて考え、それらをGOに持つものすべてを対象として選択することになります。

 

AmiGO を使った Gene Ontology (GO) の検索(結果の表示と取得)

検索結果の表示と取得

用語の検索結果の画面において、用語の右側に表示された遺伝子数をクリックすることで、その用語をアノテーションに持つ遺伝子の一覧を表示できます。このとき、遺伝子数が多い場合は一覧が表示されません。生物種を選択して、フィルターをかける必要があります。

検索結果とフィルター

一覧が表示されます。この結果をファイルとして保存するには、 “gene association format” をクリックします。こうして取得されたリストは、マイクロアレイデータを解析する際に役立ちます。

検索結果の取得。

検索結果には、選択した用語(例の場合は、GO:0043066 negative regulation of apoptotic process)と、その子供の用語をアノテーションに持つ遺伝子も含まれています。例の場合、GO:0071866 negative regulation of apoptotic process in bone marrow をアノテーションに持つ2個の遺伝子が含まれています。

子供の用語を含む結果。
 

AmiGO を使った Gene Ontology (GO) の検索

GOの検索

AmiGO では、特定の用語(キーワード)が GO に登録されているかどうかの検索が行えます。ボックスに検索したい用語を入力し、「送信」ボタンをクリックします。

検索画面

 

下図のような検索結果が表示されます。必ずしも検索した単語が登録されているとは限らないため、その単語を含む用語や、似ている用語、シノニムなどが表示されます。検索結果の各用語の右側に表示されている xxxx gene products は、その用語をアノテーションに持つ遺伝子の数です。この例の場合、 アポトーシス抑制 (GO:0043066 negative regulation of apoptotic process) をアノテーションに持つ遺伝子が、3579個存在するということが示されています。(標準のフィルター無しの設定では、すべての生物種における結果の合計値です。)

検索結果
 

Gene Ontology (GO) の階層構造

GO の階層構造

整理するために階層構造になっています。用語と用語に親子関係があるとも言えます。例えば、「細胞」の中に「細胞内領域」があり、「細胞内領域」の中に「核」があり、「核」の中に「染色体」があるといった具合です。

これらの用語の階層構造は、 AmiGO の Tree Browser で見ることができます。

GO の Tree Browser 表示。

階層構造の上位の用語ほど、あいまいな用語になっています。また、下位のものほど、より意味の限定された用語になっています。用語に親子関係があると何が便利かというと、階層構造をたどることで、あいまいな用語でまとめて検索ができる点です。

例えば、アポトーシス促進 (GO:0043065 positive regulation of apoptotic process) と、アポトーシス抑制 (GO:0043066 negative regulation of apoptotic process) は、その共通の親であるアポトーシス作用 (GO:0006915 apoptotic process) という用語でまとめて検索できます。

GOの階層構造は、Directed acyclic graph (DAG) という特殊な階層構造で、親を複数持つことができます。しかし、マイクロアレイデータのアノテーションを扱う上で、特に意識する必要はないと思います。

 

Gene Ontology (GO) の分類

Gene Ontology (GO) に登録されている用語は、大きく下記の3種類にまず分類されています。

  • biological process
  • cellular component
  • molecular function

biological process

「生物学的機能」と訳されることが多いですが、分かりにくいかもしれません。例としては、アポトーシス (GO:0006915 : apoptotic process) や、細胞周期 (GO:0007049 : cell cycle) など、主に細胞内で起こるイベントが登録されています。

cellular component

細胞膜 (GO:0044425 : membrane part)、核 (GO:0005634 : nucleus)、 染色体 (GO:0005694 : chromosome) といった細胞を構成する名称が登録されています。

molecular function

MAPキナーゼ活性 (GO:0004707 : MAP kinase activity) など、分子の機能を表す用語が登録されています。biological process との区分が分かりにくいかもしれません。

 

通常、これらの区分を意識する必要はないと思います。なお、教科書や論文で使用されている用語が全てGOに登録されているとは限りません。特定の用語が GO に登録されているかどうか確認する場合は、 AmiGO で検索を行います。