マイクロアレイ解析のフローチャート3(上流解析)

マイクロアレイ解析のフローチャート2までの結果として、「特定の(生物学的な)機能を持ち、かつ、特定の発現変動パターンを示した遺伝子群」が得られます。典型的なデータの場合、それは、数十から数百個の遺伝子となります。

フローチャート2までに得られた遺伝子群。
フローチャート2までに得られた遺伝子群。

次のステップとしては、いろいろ考えられます。その中でも定番ともいえる手法が、「上流解析」です。上流解析の考え方は、次のようなものです。

フローチャート2までに得られた遺伝子群は、同じ発現変動パターンを示しています。つまり、同じ遺伝子Xによって制御されているのでは?と想像します。もし、そのような遺伝子Xが存在するのであれば、その遺伝子Xの変化こそが、特定の遺伝子群を動かした原因と言えるのではないでしょうか?

特定の遺伝子群を制御するような遺伝子Xの存在。
特定の遺伝子群を制御するような遺伝子Xの存在。

マイクロアレイ解析の結果から、特定の遺伝子群が動いていた、その原因または理由を知りたいときは、この上流解析が1つの手段です。

では、どうやって、この遺伝子Xを探すのでしょうか?まず、遺伝子群をリストとして眺めていたのでは全体のイメージがつかみにくいでしょう。同じ機能を持った遺伝子どうしは、シグナル伝達や転写制御など、何らかの制御関係を持っているはずです。よって、それらの情報とともに見ることで、遺伝子どうしの前後関係がつかみやすくなります。これを行うのが、パスウェイ解析ネットワーク解析と呼ばれる手法です。

変動した遺伝子群をパスウェイネットワークの図に当てはめてみて、そこから、遺伝子Xを探そうというものです。

パスウェイやネットワーク図に当てはめて、遺伝子Xを探す。
パスウェイやネットワーク図に当てはめて、遺伝子Xを探す。

 

 

Cytoscape

タンパク間相互作用 (Protein-Protein Interaction) や、遺伝子の制御関係などのネットワークを表示するソフトとして、 Cytoscape があります。操作方法がなかなか難しいと思いますが、多機能なソフトです。ネットワーク図を作成し、そのネットワーク図のレイアウトをグラフ理論のアルゴリズムによって変更し、ネットワーク上の遺伝子の色をマイクロアレイデータの増減に応じて色付けするといったことが可能です。また、 Cytoscape の中から、GeneMANIA を呼び出すということもできます(追加でインストールが必要です)。

cytoscape
Cytoscape のサイト。

インストールするまでが少し大変かもしれません。Cytoscape を実行するには、Java と呼ばれるプログラムが別に必要になります。パソコンに初めからインストールされていることもありますが、ない場合は自分で Java をインストールする必要があります。

無料で使えるソフトですが、LGPLというライセンスに同意しなければなりません。ただ、ネットワーク図を作成したり、表示したりということに関しては、気にする必要はありません。Cytoscape を利用して、新たにプログラムを開発するといった場合に適用されます。

統合tvにも解説があります。

 

GeneMANIA

ある遺伝子について研究していて、「その遺伝子に何らかの関連が報告されている遺伝子をまとめて知りたい」と思ったことはないでしょうか?それをネットワークの図で表してくれるツールが GeneMANIA です。

GeneMANIA
GeneMANIA で検索する例。

トップの画面から、生物種を選択し、遺伝子名を入力するだけで、関連する遺伝子の情報がネットワークの図とともに得られます。データとしては、マイクロアレイデータによる共発現の情報や、Protein-Protein Interaction (PPI) の情報、  BioGRID など、さまざまな情報が元になっています。

GeneMANIA
GeneMANIA のネットワーク図。

どの種類の情報による関係(線)かは、線の色から知ることができます。機械的に生成された情報なので、これまでに知られている関係が整理されて、まとめられているわけではありませんが、便利なツールだと思います。