クラスタリングで似ているサンプルを探す(階層的クラスタリング)

似ているサンプルを探したい場合は、クラスタリングで見つけることができます。 MeV を用いた解析例を示します。

階層的クラスタリングで似ているサンプルを探す

似ているサンプルを探していたい場合、クラスタリングのアルゴリズムとしては、「階層的クラスタリング」の手法がよく用いられます。

階層的クラスタリングでは、sample2 に一番似ているのは、sample3、その次は、sample1 というように、似ている順序が示されます。また、その順序は、系統樹(ツリー)で表現されます。

最終的には、各サンプルのヒートマップの上部(または下部)に、そのツリーを組み合わせてものが結果として用いられます。ツリーとヒートマップは独立していることに留意してください。ヒートマップを書かなくてもツリーは算出できますし、ツリーを算出したからといって、ヒートマップができるわけではありません。(ツリーの結果だけ、ヒートマップに後付けされることもあります。)MeV などのツールを用いれば、クラスタリングの結果が自動的にヒートマップになるので、誤解しやすい点です。

例えば、解析例1のデータをサンプル方向でクラスタリングすると下図のようになります。あえて、遺伝子方向のクラスタリングは行っていません。そのため、ヒートマップの色は分かれているように見えていませんが、どのサンプルが似ているかはツリーから確認できます。

階層的クラスタリングの結果。
階層的クラスタリングの結果。
 

クラスタリング (MeV, k-means クラスタリング)

遺伝子の変動パターンを分類するには、クラスタリングが用いられます。MeV を用いて、クラスタリングの手法の1つである k-means を使った例を紹介します。

クラスタリング手法の選択

MeV でデータを読み込み、クラスタリング手法(アルゴリズム)を選択します。(ここでは、クラスタリングの前に、log2変換と中央値からの距離に直す補正を行っています。操作方法はこちら

クラスタリング手法を選択。
クラスタリング手法を選択。

パラメーターの設定

ダイアログが表示されるので、パラメーターを設定します。ここでは、変動パターンで分類したいため、遺伝子方向のみのクラスタリングを行います。(似ているサンプルを探すのなら、サンプル方向にクラスタリングします。)

クラスターをいくつに分けるか指定します。標準では10個の設定です。

また、結果を見やすくするため、さらに階層的クラスタリングで処理するチェックを入れます。

K-means クラスタリングのパラメーターを設定。
K-means クラスタリングのパラメーターを設定。

結果の表示用の階層的クラスタリングのパラメーターを設定します。同様に遺伝子方向のみ指定しています。また、最適化のオプションにチェックを入れています。ほかのパラメーターは標準設定のものを使用しました。

階層的クラスタリングのパラメーターを設定。
階層的クラスタリングのパラメーターを設定。

結果の表示

ウィンドウの左側の結果をたどると、変動パターン10個に分けられた各クラスターのヒートマップを確認できます。

10個のクラスターのヒートマップ。
10個のクラスターのヒートマップ。

また、 Expression Graphs を選択すると、各クラスターに含まれている遺伝子の折れ線グラフが表示されます。各クラスターに含まれている遺伝子の数もここでチェックできます。

各クラスターに含まれている遺伝子の変動パターンの折れ線グラフ。
各クラスターに含まれている遺伝子の変動パターンの折れ線グラフ。
 

KEGG パスウェイの色付け:指定したはずの色にならない

KEGG パスウェイの色付けを行う場合は、いくつか注意点があります。特に、パスウェイ上の1つのシンボルに、複数の遺伝子が含まれている状態を考慮する必要があります。

1つのシンボルに複数の遺伝子が含まれる

ファミリーやバリエーションのある遺伝子の場合、KEGGでは、複数の遺伝子を1つのシンボルでまとめて表記している場合があります。例えば、 PI3K などです。PI3K のシンボルには、 PIK3R5, PIK3CA, PIK3CB, … などがまとめられています。

シンボルにどの遺伝子が割り当てられているかは、各シンボルをマウスでポイントする(=カーソルを合わせてしばらく動かさない)ことで確認できます。

シンボルをマウスでポイントすると、含まれている遺伝子名がわかります。
シンボルをマウスでポイントすると、含まれている遺伝子名がわかります。

指定したはずの色にならない

1つのシンボルに、複数の遺伝子が割り当てられている場合、複数の色を指定したとしても、いずれかの遺伝子の色が割り当てられます。

KEGG Mapper で、1つのシンボルに複数の色を指定した例。
KEGG Mapper で、1つのシンボルに複数の色を指定した例。

例えば、 PI3K のシンボルに含まれている 5290 (PIK3CA)23533 (PIK3R5)、に指定した場合、KEGG Mapper の結果において PI3K は、になります。 この場合、 23533 の色のみが使用されています。後に指定したほうが優先されるというわけではなく、ポイントしたときに表示される順が早い遺伝子の色を採用しているようです。(詳しくはわかりません。)

この結果、発現が下がっていたので、く表示したかったとしても、に表示されるというように、指定したはずの色にならないケースがありえます。(矛盾した結果というわけではなく、ファミリーに含まれている遺伝子の変動の向きが一致しないことはしばしばあります。むしろ、全てのファミリーが同じ方向に変動したというデータを見ることが稀のように思います。)

パスウェイを発現変動遺伝子で色付けしたとしても、最終的には、エクセルに戻って、実際の ratio やシグナル値の値を確認するようにしましょう。

 

KEGG パスウェイ色付け (KEGG WebLinks)

KEGG Mapper による色付けでは、1つのシンボルの色は、1色しか指定できません。そのため、解析例1のようなタイムコースのデータの場合、パスウェイ上での色の変化を時系列で観察するには、各タイムポイントの比較結果ごとに色付けを繰り返し行うことになります。

タイムコースデータの色付け

解析例1の場合は、16hr, 24hr, 40hr の3パターンの比較結果があるので、3回色付けを行います。前回は、24hr の結果で色付けを行っていました。このデータの場合、16hr は1つも色がつかない(変動している遺伝子が KEGG の Apoptosis にヒットしない)ので省略します。40hr の変動遺伝子を色付けした結果を下図に示します。

40hr の発現変動遺伝子を色付けした場合。
40hr の発現変動遺伝子を色付けした場合。

24hr の結果と比べると、PKAに色がつかなくなっています。これらの色付けされたパスウェイの図だけを見るならば、 16hr で1つも色がつかず、24hr, 40hr で CASP12 などが増加しているように見えるため、 Apoptosis が活性化しているような印象を与えるかもしれません。(閾値ぎりぎりで、変動ありとなっていない場合もありますので、正確には、エクセルなどでシグナル値をチェックする必要があります。)

KEGG WebLinks の利用

このように、複数のパターンで(or 複数のパスウェイに対して)色付けする必要がある場合は、 KEGG WebLinks を利用するのが便利です。

KEGG WebLinks の書式。
KEGG WebLinks の書式。

URL (リンク)に決まった書式(フォーマット)で、 IDカラーを指定することで、色付けしたパスウェイの結果にアクセスできます。

今回の例であれば、下記のようなアドレスとなります。(詳しい書式は、KEGG WebLinks のページを参照してください。)

http://www.kegg.jp/kegg-bin/show_pathway?map=hsa04210&multi_query=100506742+%23FF6699%2C%23000000%0A23533+%23FF6699%2C%23000000%0A

KEGG WebLinks を利用することで、直接結果にアクセスできるため、前回のようなフォームに入力する手間を省くことができます。

 

発現変動遺伝子をリアルタイムPCRで確認

発現変動している遺伝子の検討がついたら、重要そうな遺伝子については、リアルタイムPCRなどで確認 (validation) することになります。(論文投稿時に求められることもあるようです。)

その場合、内在性コントロールをどの遺伝子にするかは重要です。遺伝子によっては、マイクロアレイデータの変動と逆の結果が得られることになります。

内在性コントロールが変動する

これまでに、GAPDH など内在性コントロールとしてよく用いられる遺伝子であっても変動することが知られています。

マイクロアレイの場合は、せっかく、手元に全ての遺伝子のデータがあるのですから、ハウスキーピングなど、内在性コントロールとして用いられる遺伝子を一通り確認してみるとよいでしょう。(遺伝子名でピックアップすればよいです。)

たとえば、解析例1のデータから、内在性コントロールとしてよく用いられる遺伝子を抽出して、ヒートマップを作成すると下記のようになります。今回の場合、どれも変動はほとんど見られないようです。

内在性コントロールとして用いられる遺伝子のヒートマップ。
内在性コントロールとして用いられる遺伝子のヒートマップ。

同様に、自分のマイクロアレイデータの中から、変動していないように見えて、なおかつ、シグナル値の高いものを選ぶと良いでしょう。